今の時期、店では松茸を使い始めた。そのきのこを、私はさっと洗う。ただし使う直前に限る。
「きのこは洗うな」と教わった人は多いと思う。洗うと風味が飛ぶ、という理屈だ。だが長年きのこを扱ってきて、その理屈には違和感がある。問題は洗うことそのものではない。洗って放置することだ。
洗うかどうかは、ものを見て決める
きのこを洗うかどうかは、種類だけで決めていない。手に取って、実際の状態を見て判断する。
松茸と椎茸は、表面にゴミがついていることが割と多い。だからこの二つはちゃんと洗う。
しめじや舞茸、えのき、エリンギなどは、正直ほとんど汚れがついていない。そのまま使うことも多く、気になったときだけ洗う。
洗う理由は一つだ。お客さんの口にゴミが入るのが、一番困る。「洗うと風味が飛ぶ」とよく聞くが、すぐ調理すれば関係ないと思う。それよりゴミのほうが問題だ。
洗うのが問題ではない。洗って置いておくのが問題だ
私は下ごしらえの最後、使う直前にきのこをさっと洗う。

きのこは構造上、水を吸いやすい。水を吸うと、傷むスピードが上がる。傷めば香りも味も落ちる。だから正確に言えば「洗うと風味が落ちる」のではなく、「洗って放置すると傷む」だ。香りそのものは、さっと洗った程度ではそこまで変わらない。
市販されているきのこは、たいてい菌床栽培で、衛生的な環境で育てられている。メーカーが「洗わなくてもよい」と説明しているのはそのためだ。ただしこれは「洗ってはいけない」という意味ではない。
洗ったら振って、すぐ使う
洗うと決めたら、その場でさっと済ませる。ため置きはしない。
洗うときは、細心の注意を払う。ゴミが残らないように、確認しながら洗う。
水気は、振るだけにしている。拭くことはしない。
振ったら、すぐに調理に使う。洗ってから時間を置くことは、うちでは基本的にない。特別な工程ではなく、いつもの流れの中でやっていることだ。
石づきは、本当に石がついているところだけ落とす
石づきを落とすときは、本当に石や培地がついている部分だけを切る。
見た目をそろえたくて、まっすぐ大きく切り落とすやり方もあるが、それだと食べられる部分まで無駄になる。
ホクトは、石づきをまっすぐ切ると可食部を削りすぎるとして、逆V字にカットする方法を勧めている。
エリンギのように、石づきがほとんど気にならない種類もある。全部を一律に大きく削る必要はない。
きのこは使う日に仕入れる。松茸だけ紙に包む
きのこは、基本的に使う日に仕入れている。日をまたいで置いておくことは、あまりない。
松茸だけは事情が違う。ある程度まとめて仕入れることになるので、紙に包んで冷蔵庫で保管している。値段の話は松茸はなぜ高いに書いた。
岩泉まつたけ事業協同組合は、届いてから一両日中に食べるのが基本だと案内している。数日おく場合は、キッチンペーパーで包んで冷蔵するとしている。うちの保管も、この考え方に近い。
きのこは中火で焼く。強火だと中に入る前に焦げる
火入れは基本、中火だ。強火だと表面ばかり早く焦げて、中まで火が入らない。時間に余裕があるときは、弱火でじっくり焼く。
焼きすぎにも注意している。焼きすぎると水分が抜けて、身が縮んで小さくなりすぎる。
煮るときのアクは、味だけでなく色も変える
きのこは思いのほかアクが出る。焼くときはあまり気にしないが、煮るときは別だ。アクを取らずに煮ると、味が濁るだけでなく、汁の色まで変わることがある。スープや餡を作るときは特に注意している。
合わせ出汁に漬けて、冷めるまで置く
干し椎茸は、たまに合わせ出汁で使う。あらかじめ合わせておいた出汁にきのこを漬け込み、加熱したあとも冷めるまでそのまま置いておく。急いで引き上げるより、味の入り方が落ち着く気がする。
料理長メモ:きのこは冷凍してから加熱すると、うまみ成分のグアニル酸が増えることが調理科学の研究でわかっている。女子栄養大学の研究で、日本調理科学会誌に2015年に発表された内容だ。対象はナメコ、ブナシメジ、エノキタケで、椎茸は含まれていない。
原木椎茸と菌床椎茸の違い
秋のきのこで一番好きなのは、原木椎茸だ。国産の松茸は別格として、それ以外では原木椎茸が一番美味しいと感じている。
原木椎茸はサイズが揃わない。見た目は菌床のものより不揃いで、見劣りすることもある。ただそのぶん、野生味がある。

肉厚か、香りが強いか、味が濃いかは個体差が大きく、断定はできない。それでも食感の良さは、全体的に菌床のものより上だと思う。
菌床栽培が悪いわけではない。衛生的で扱いやすく、味も十分にいい。私が原木を好んでいるだけの話だ。
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