今の若い人なら、ホテルを勧める。
ただ、技術や知識をとことん突き詰めたいなら、個人店のほうがいい。ホテルと個人店、両方で働いてきた。
ホテルで9年働いて、仕込みの量と衛生を身につけた
修行はホテルから始めた。9年間、ホテルの厨房で働いた。
仕込みとは、営業の前に済ませておく下ごしらえのことだ。ホテルは、この仕込みの量が多かった。同じ作業を、何度も繰り返した。
一つひとつの作業を、決まった時間の中でこなしていく。その積み重ねが、9年間続いた。
宴会の段取り、基本の技術、衛生の決まり。どれも、この期間で身についた。
ホテルの厨房は、和洋中とレストラン・宴会で分かれていた
厨房は、和食・洋食・中華に分かれていた。それぞれの中で、さらにレストランと宴会に分かれていた。
レストランは日々の営業を、宴会は行事やパーティーの料理を担当する。
宴会と、日々のレストラン営業とでは、求められるスピード感も違った。
一つの厨房の中に、いくつもの持ち場があった。どの持ち場も、経験しておいて損はなかった。
ホテルは規律が厳しく、衛生の指導も多い
ホテルは規律が厳しかった。衛生面の指導も多かった。だから、他の調理師よりは衛生の意識が高いと自分では思っている。
細かい確認を怠らない。その積み重ねが基本だと考えている。
厚生労働省によると、令和3年6月1日から衛生管理の決まりが変わった。原則すべての食品を扱う事業者が、「HACCPに沿った衛生管理」に取り組むことになった。
飲食店もその対象で、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」という形で対応する。今はどの店も、衛生管理に取り組む決まりになっている。
料理長メモ:厚生労働省は、お店がやることを挙げている。衛生管理計画をつくって従業員に伝えることや、実施したことを記録して保存することだ。
個人店に移って、お客さんと直接話すようになった
個人店に移って、一番変わったのはお客さんと直接話す機会ができたことだ。
閉鎖的ではない環境で、新鮮だった。
お客さんの反応を、直接見られるようになったのも大きい。料理を通して、人と向き合う時間が増えた。
ただ、接客することの難しさも知った。
お客さんと話しながら、料理をする。お客さんが、どんな話をしたがっているのかを考える。
どんな話の引き出しを持っていれば、多くのお客さんと話すのが難しくなくなるのか。そこにも難しさがあった。
個人店のほうが、いろいろな仕事に触れられる
店にもよるが、個人店のほうが、いろいろな仕事に触れることが多い。
ホテルは人数が多く、仕事も分担されていることが多い。雑用や仕込みでも、知識としては知っていても、やったことがない仕事があった。
個人店になると、やらなければならないことが増える。献立を考え、買い出しに行き、メニューの打ち込みもした。
その分、一人で任される範囲も、自然と広がっていった。その経験の一つひとつが、今、料理長を務めるうえで役に立っている。
技術や知識をとことん突き詰めたい人には、個人店を勧める。
労働時間は、当時はホテルも個人店も同じだった
労働時間は、当時はホテルも個人店も同じだった。
私たちが若い頃は、先輩より先に出勤するのが当たり前だった。帰るのも、一番遅かった。休みの日も、忙しければ普通に出勤した。それは個人店でも同じだった。
最近は、労働時間も自分たちの頃とは違うと聞いている。
厚生労働省によると、残業には法律で上限が決まっている。原則として月45時間、年360時間だ。中小企業には2020年4月から適用されていて、飲食店や宿泊業も対象だ。
今の若い人に、同じことを勧めるつもりはない。
ただ、あの時期を乗り越えてきたから、今がある。そう思う。あの時に頑張ってきたから、見てくれていた人が、上に引き上げてくれた。
引き上げてもらって立場が変わった話は、料理人の給料は上がるのかにも書いた。
時代が変わっても、人は変わらない。そこは今も変わらない。それが、クリエイティブな仕事をするということだと思っている。
料理長メモ:厚生労働省の就労条件総合調査によると、宿泊業・飲食サービス業の有給休暇の取得率は上がっている。令和2年調査の41.2%から、令和6年調査では51.0%になった。ただし、全業種の中では今も最も低い。
何をとことん突き詰めたいかで、修行先を決めればいい
最近の若い子には、基本はホテルを勧める。仕込みの量も、衛生の意識も、ホテルで身についた。
ただ、技術や知識をとことん突き詰めたいなら、話は別だ。その場合は、個人店のほうがいい。
何をとことん突き詰めたいか。それで、修行先を決めればいい。
料理人を続けるかどうかの話は、料理人はやめとけ。それでも私が20年辞めなかった理由に書いた。
料理歴20年以上の現役料理長。和食・肉料理の現場で培った知識を、家庭で活かせる形で発信しています。調味料の使い分けから包丁の選び方まで、プロの本音で解説するブログ「料理長まっくるの和食帳」を運営中。