若い頃、六方に剥いた里芋にヒビを入れたことがある。
下茹でにかけすぎた。全部が崩れたわけではなく、一部に少し割れが出ただけだ。それでも、角を面取りする手間をかけたあとだったので、あれはこたえた。
ぬめりのほうは、新人の頃から取っていない。塩もみもしない。それで困ったことは一度もない。
ぬめりを取るための塩もみはしない
里芋の下ごしらえで、私は塩もみをしない。皮をむいたら、そのまま下茹でに入れる。
理由は特になく、新人の頃からその手順でやってきた。塩もみをする作り方があるのは知っている。農林水産省も、皮をむいた里芋に塩をふってもみ、茹でこぼす方法を案内している。ただ、自分の下ごしらえにその工程がない。
ただし、茹でている最中に浮いてくるぬめりは別だ。アクのような感じで表面に上がってくるので、これはすくう。取らないのは下ごしらえの塩もみのほうで、鍋の中に出てきたものまで放っておくわけではない。
ぬめりを取るのは、煮汁を澄ませたいときと味を染ませたいとき
ぬめりを取る意味自体は理解している。澄んだ煮汁にしたいときや、短時間で味をよく含ませたいときは、あの手順に意味がある。
私が普段作るのは団子や饅頭、揚げ出しだ。どれも煮汁を澄ませる必要がない。取らないことと、その用途は辻褄が合っている。
下ごしらえで何をやめるかは、食材ごとに考えている。きのこを洗うかどうかも同じ話で、「きのこは洗うな」は本当かに書いた。
料理長メモ:キッコーマンは、里芋を煮るとぬめりで汁がにごったりとろとろになると説明している。千葉県は、塩もみして洗うと味が浸みやすくなると案内している。ぬめりの正体は、水溶性の食物繊維だと農畜産業振興機構が説明している。
皮は生のまま剥く。手が弱い人は手袋をしてほしい
皮は蒸したり茹でたりせず、生のまま剥く。手がかゆくなったことは、これまで一度もない。
ただ、これは自分の話であって、誰にでも当てはまるわけではない。農林水産省は、里芋で手がかゆくなる原因を、針状のシュウ酸カルシウムの結晶が皮膚を刺激するためだと説明している。
かゆみが出やすい人は確かにいる。手が弱いと感じる人は、手袋をしてほしい。無理をする工程ではない。
料理長メモ:カゴメと味の素は、かゆみを防ぐ方法として、里芋をよく乾かしてから皮をむくことを案内している。農畜産業振興機構は、酢水を使う方法を挙げている。
下茹での終点は、串がスッと入るところ
下茹での終わりの目安は、串を刺してスッと入るところだ。硬さが残っていれば、まだ火を入れる。
サイズが揃っている里芋なら、一個確かめれば他も大体同じ状態だと判断できる。ただ、サイズが違えば話は別で、一個ずつ確かめるほうが確実だ。店では潰して使うことが多く、形も大きさもばらつく。だから私は一個ずつ串を刺している。
茹ですぎると、里芋は簡単に割れる。省ける工程はないが、火を入れすぎないことだけは気をつけている。
白く仕上げたいときだけ、米のとぎ汁を使う
色を白く仕上げたい料理のときは、米のとぎ汁で下茹でする。普段はそこまでしない。仕上がりの色を意識する場面だけだ。
品種は選ばない。ただしセレベスだけは避けている
里芋の品種で使い分けはしていない。下ごしらえも味付けも、品種で変えることはない。
ただ、セレベスだけはできるだけ避けている。硬いからだ。これは自分が扱ってきた範囲での話で、一般的にそう決まっているわけではない。仕入れで見かけたら、別のものを選ぶようにしている。
味付けは、調味料で「整える」だけ
味付けは塩、薄口醤油、味醂を少しずつ。分量はあらかじめ決めていない。薄口醤油の使い分けは醤油の違いと使い分けにまとめている。
素材の味を活かすとき、調味料はあくまで味を整えるものだと思っている。里芋の持ち味が引き立つところで止める。それ以上は入れない。仕上がりを見るのは口当たりだ。
割合を出す必要がないのは、料理によって狙う味が変わるからだ。団子にするなら、素材の味を邪魔しないシンプルな味付けにする。餡掛けにするなら、餡まで含めて計算した味付けにする。そのつどレシピを出してはいられない。ここはプロの仕事だ。
家庭では、自分が食べたい味付けにしてもらって構わない。ちょうどいい塩梅は、作る人ごとに違っていい。
六方剥きは家庭では要らない。おもてなしなら、かっこいい
六方剥きは、里芋の角を面取りして仕上げる飾り切りだ。手間がかかる分、食べられる部分は減る。
家庭で毎日の煮物にこの手間をかける必要はない。ただ、人を招くときの一品としてなら話は別で、六方剥きの里芋が並ぶ皿はかっこいいと思う。店でも、たまにきれいに六方に剥いたものを出している。
普段の食卓とおもてなしの場では、かけていい手間の量が違う。それだけのことだ。
形が不揃いでいい。だから里芋は安く買える
里芋の団子や饅頭、揚げ出しは、潰したり衣をつけたりする料理だ。形がきれいに揃っていなくても困らない。
形が不揃いの里芋は、見た目の良いものより安く手に入りやすい。使い道さえ選べば、十分においしく仕上がる。
同じ秋の食材でも、松茸のように値段が跳ね上がるものもある。そちらは松茸はなぜ高いに書いた。
団子も饅頭も揚げ出しも、家庭で難しい料理ではない。皮を剥く手間さえかければ、あとは潰すか、衣をつけて揚げるかだ。
潰したものに、つなぎは何も入れない。そのまま丸めるだけだ。丸くても、欠けていても、味には関わらない。
ぬめりを取るか取らないか、六方剥きをするかしないか。どちらも、正解が一つ決まっているわけではないと思う。今日の食卓に合う手間を、そのつど選んでもらえたらうれしい。
料理歴20年以上の現役料理長。和食・肉料理の現場で培った知識を、家庭で活かせる形で発信しています。調味料の使い分けから包丁の選び方まで、プロの本音で解説するブログ「料理長まっくるの和食帳」を運営中。