料理長は肉に温度計を刺さない。それでも家庭には勧める理由

私は店で肉を焼くとき、芯温計は使わない。それでも家庭には、温度計を持つことを勧める。

理由は単純だ。指で押して焼き加減を見る判断は、経験を積まないと身につかない。プロにできることが、家庭でそのまま再現できるとは限らない。

指で押して焼き加減を見る方法

やり方自体は、そう複雑ではない。

焼く前に、生の肉を指で軽く押す。この弾力を覚えておく。これが基準になる。

両面に焼き色がついたら、あとはじっくり火を入れていく段階に入る。押したときに生肉と同じくらい柔らかければ、表面が焼けていても中はまだ生焼けだ。完全に火が入ると、やわらかさはまったくなくなる。

焼き加減は、この中間のどこかにある。生に寄った弾力ならレアに近く、硬くなるほどウェルダンに近づく。文字にすればそれだけの話だ。

料理長メモ:この基準を体で覚えるには、何度も肉を焼くしかない。近道はない。

だから家庭には、温度計を勧める。

指で押す判断を家庭に勧めない理由

「生の肉の弾力を覚えて、焼き上がりと比べる」。言葉にすれば一行だが、これを実際の焼き加減の判断につなげるには、場数がいる。

私も最初からできたわけではない。火が入りすぎて硬くなった肉を何枚も出した。逆に、見た目は焼けていても中が生焼けのまま切ってしまったこともある。同じ肉、同じ厚み、同じ火加減で焼ける機会は、そう多くない。厚みが変われば基準はずれるし、脂の量でも押した感触は変わる。

店では毎日同じ肉を大量に扱うから、この感覚を維持できる。家庭で月に数回しか肉を焼かない人が、同じ精度を求められても難しい。感覚は使い続けないと鈍る。

だからこそ、数字で焼き加減を確認できる道具には意味がある。指の感覚を鍛えるより先に、温度計で答え合わせをした方が早い。

よく比較される温度計の違い

芯温計と油温計の違い

芯温計は、肉や魚など食材の中心温度を測る道具だ。針を食材の一番厚い部分まで刺し、中心部の温度を読み取る。

油温計は、揚げ油の温度を測る道具で、食材には刺さない。油の中に入れて温度を確認する。測る対象がまったく違うので、どちらか一方で代用はできない。

アナログの温度計とデジタル温度計の違い

アナログは針で温度を示すタイプで、電池がいらず壊れにくい。ただし目盛りを目で読む分、細かい温度までは把握しづらい。

デジタルは数値が画面に表示されるタイプで、読み取りやすく反応も速い。電池切れのリスクはあるが、細かい温度管理をしたい場合はデジタルの方が扱いやすい。

温度計と低温調理器の違い

温度計は、あくまで「今の温度を測る」道具だ。測った後にどう火加減を調整するかは、使う人の判断に委ねられる。

低温調理器は、設定した温度を機械が自動で維持し続ける調理器具そのものだ。温度を測るだけでなく、加熱そのものをコントロールする点が温度計とは違う。

温度計がないと難しい料理

揚げ物にはあるとかなり便利だが、なくても勘で作れないことはない。一方で、温泉卵やサラダチキン、低温調理は事情が違う。

これらの料理は、加熱時間だけでなく温度そのものが仕上がりを決める。温度が低すぎれば中まで火が入らず、高すぎれば食感が変わってしまう。目や勘で温度を判断するのは、肉を指で押す以上に難しい。中心部の温度は外から見ても分からないからだ。

具体的な温度と時間は、使う調理器具やレシピの指示に必ず従ってほしい。特にサラダチキンや低温調理は、加熱不足だと食中毒につながる恐れがある。ここでの数字の判断は自己流に頼らない方がいい。

揚げ物に温度計があると何が変わるか

揚げ物は、店でも油温計を使っている。理由は、油の温度が仕上がりを大きく左右するからだ。

温度が低いまま食材を入れると、衣が油を吸って重くなる。高すぎれば表面だけ焦げて中に火が通らない。目安としてよく言われる170〜180℃という範囲も、実際に温度計で確認しながら揚げると、狙った温度を安定して保てる。

家庭のコンロは火力にばらつきがあるし、油の量や食材を入れるタイミングでも温度は変動する。油温計があれば、その変動を都度確認しながら調整できる。勘だけで繰り返し揚げ物を作ってきた人でも、温度計を使うと衣の色や仕上がりのばらつきが減る。これは店で使っていて実感していることだ。

どれを選ぶか、価格帯で見る

価格帯タイプ向いている人
1,000〜3,000円棒状デジタル温度計揚げ物や肉料理をたまに作る人。まず一本欲しい人
3,000〜8,000円防水・応答が速いデジタル温度計頻繁に料理をし、洗いやすさや反応速度を重視する人
1,000〜3,000円油温計揚げ物を家庭でよく作る人
1万〜2万円低温調理器温泉卵やサラダチキンなど、温度管理が仕上がりを左右する料理を定期的に作る人

結局どれを買うべきか

揚げ物をたまに作る程度なら、1,000〜3,000円の棒状デジタル温度計で十分だ。まずはここから始めればいい。

揚げ物を頻繁に作るなら、専用の油温計を一本足すと安定感が変わる。反応の速さや洗いやすさにこだわりたい人は、3,000〜8,000円帯のデジタル温度計を選ぶといい。

温泉卵やサラダチキン、低温調理を定期的に作りたいなら、温度計だけでは足りない。低温調理器まで含めて検討した方が、失敗が減る。

肉の焼き加減は、指で押して判断できるようになるまで時間がかかる。その間、温度計は焼き加減を数字で確認できる道具になる。まずは一本、家にあるかどうかで、次に焼く肉の仕上がりは変わってくる。

料理長おすすめ|まず1本選ぶなら

最初の一本は、油にも肉にも使えるものを選べばいい。専用機を揃えるのは、使う頻度がはっきりしてからで間に合う。

洗える防水デジタル温度計(-50〜300℃・3秒測定)

-50〜300℃まで測れるので、揚げ油の温度確認にも、肉の中心温度にも一本で足りる。測定が速いほど、鍋や肉に手を近づけている時間が短くなる。本体ごと洗えるのも、油や生肉に触れたあとを考えると扱いが楽だ。

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