昔、先生に「水は100度以上にならないよ」と嫌味を言われたことがある。
沸いたあとに火を強くしても、湯の温度はそれ以上上がらない。火を弱めろ、ガスがもったいない。そういう軽い嫌味だ。
大根の下ごしらえも同じだ。面取り、米のとぎ汁、隠し包丁。どれもよく紹介される手順だが、私は普段ほとんどやらない。本当に要るのは下茹でだけだ。
私は料理を提供して生計を立てている。だから、仕事するところはきっちりやる。必要性がないと感じればやらない。そういう主義だ。
面取りは、仕事してる感を出すだけだ
面取りは、切った大根の角を薄くそぎ落とす下ごしらえだ。煮崩れを防ぐためのものとして紹介されることが多い。
私は、仕事してる感を出すだけだと思っている。煮崩れを防ごうと思えば、弱火で煮込めばいいだけの話だ。
ただし、大根を全面的に押し出した料理のときは面取りをする。大根が脇役のときはしない。料理の中での大根の立ち位置で、やるかやらないかを決めている。
米のとぎ汁は、味に関わらない
大根を下茹でするとき、米のとぎ汁を使ったり、米をひとつまみ入れたりする方法がある。白く仕上がる、苦味が抜ける、といった理由で紹介される。
正直、とぎ汁はあまり味に関わらない気がする。だから私はやっていない。
隠し包丁は、早く火を入れたいときだけ
隠し包丁は、味が染み込みやすいように切り込みを入れる下ごしらえだ。
正直、私には早く火が入るため以外の理由が見当たらない。だから最近は入れていない。
一方で、早く調理したいときには必要な手間だ。いつも入れるものではなく、急ぐときに使う道具だと考えている。
下茹では必ずしたほうがいい。水から、何も入れずに
面取りもとぎ汁も省くが、下茹でだけは省かない。下茹では必ずしたほうがいい。
切った大根を鍋に入れ、何も入れずに水から茹でる。米も、とぎ汁も、塩も入れない。
沸騰するまでは強火でいい。沸いてきたら、コトコトするくらいの弱火で大丈夫だ。
弱火で茹でていれば、面取りをしていなくても大根は崩れにくい。
味付けしたら早めに火から外して、じっくり染み込ます
煮汁の配合は決めていない。何の料理にするかで、味付けを変える。基本は口当たりで決めている。
下茹でで柔らかくなっているなら、味付けしたら割と早めに火から外す。
そのあと、煮汁に浸けたまま、じっくり味を染み込ます。火にかけている時間で味を入れるのではなく、煮汁に浸けておく時間で味を入れる。
料理長メモ:日本調理科学会の2017年の研究発表では、色をつけた煮汁で大根などを15分煮て断面を調べている。常温で置いた試料のほうが、冷蔵した試料より煮汁がしみ込んでいた。
部位の使い分けは、家庭では要らない
大根は、葉に近い上のほうと、先のほうで味が違う。確かに、部位の使い分けはしたほうが良い。
ただ、家庭でそんなことをやっていると、どこかで変なバイアスがかかって、ちゃんと使い切れない気がする。だから、家庭では必要ない。
1本の大根を、煮物でもおろしでも、その日に作りたいものに使えばいい。
料理長メモ:農畜産業振興機構は、大根は葉に近い上部ほど辛みが弱く、下部へいくほど辛みが増すと説明している。日本家政学会誌の1989年の研究は、辛味成分の量を尾のほうが頭のほうの2倍前後と報告している。
安い大根こそ、張りと水分を見る
店で大根を使うのは、おろしが中心だ。おろし金でおろす。煮るにしてもおろすにしても、最初に見るのは大根そのものだ。
選ぶときは、見た目でほとんど決まると言っても過言ではない。
見た感じ萎れていれば、明らかに鮮度が悪い。収穫してから日にちが経ちすぎている。葉っぱも同じだ。
持ってみて、皮が容易に凹んだり、しんなりしていてもアウトだ。
大根は水分が多いほうが鮮度がいいに決まっている。野菜は全部そうだ。水分が少ないものは必ず避ける。見た目で言うなら、張りがないものは絶対に避ける。
安かろう悪かろうは、まさにある。食材は元気のないものを買うと、大体後悔することになる。
料理歴20年以上の現役料理長。和食・肉料理の現場で培った知識を、家庭で活かせる形で発信しています。調味料の使い分けから包丁の選び方まで、プロの本音で解説するブログ「料理長まっくるの和食帳」を運営中。