圧力鍋は必要か。買っていいのは週2回煮込む家だけ

圧力鍋は、買っても使われなくなる道具の代表格だ。週に2回以上、乾燥豆・すね肉・角煮のような「1時間以上煮続ける料理」を作る家だけ買えばいい。それ以外の家は、今持っている鍋で足りる。

ここを曖昧にしたまま「時短になるらしい」で買うと、棚の奥で眠る。圧力鍋が短くできる料理は、思っているよりずっと狭い。

短くなる料理と、ほとんど変わらない料理

圧力鍋で劇的に変わるのは、硬い素材を長時間かけてほぐす料理だけだ。目安はこのくらい違う。

  • 乾燥大豆:通常90〜120分 → 加圧15〜20分
  • 牛すね肉の煮込み:通常2〜3時間 → 加圧30分前後
  • 豚の角煮:通常2時間 → 加圧20〜30分
  • 玄米:炊飯器の玄米モード90分前後 → 加圧20〜25分

一方、肉じゃがは普通の鍋でも15分、カレーも20分あれば煮上がる。ここに圧力鍋を持ち出しても、縮まるのはせいぜい数分。おまけに加圧と減圧の待ち時間が加わるので、トータルでは逆に長くなることさえある。

圧力鍋が要るかどうかは、この4つを月に何回作るかで決まる。月2回に満たないなら、答えは出ている。

よく比較される3つの違い

圧力鍋と普通の鍋の違い

違いは温度の上限、それだけだ。普通の鍋は水が沸騰する100℃より上がらない。圧力鍋は内部の圧力を1.5〜2気圧ほどに上げることで、水の沸点そのものを押し上げ、110〜120℃前後で煮る。

たった10〜20℃の差だが、硬い肉のコラーゲンがゼラチンに変わる速度はここで大きく変わる。結果として煮込み時間が3分の1前後になる。代わりに手放すものがある。加圧中は蓋が開かないので、途中で味を見ることも、火加減を落とすこともできない。

電気圧力鍋とガス火圧力鍋の違い

ガス火のほうが速く、強く、安い。加圧状態に入るまで5〜10分、圧力も2気圧級の機種がある。同じ容量なら電気式の半額前後で買えることが多い。

電気圧力鍋の値打ちは、火の番をしなくていいことに尽きる。材料をセットしてボタンを押せば、加圧も減圧も保温も勝手に進む。予約調理ができる機種なら、朝仕込んで帰宅時に完成させられる。ただし圧力は1.7気圧前後と控えめな機種が多く、同じ料理でもガス火より加圧時間は長めになる。本体も大きい。

選ぶ基準は性能ではなく置き場所だ。ガス火型は使うたびに棚から出す「鍋」、電気型はキッチンに置きっぱなしにする「家電」。炊飯器の隣に3リットル級の箱を常設できないなら、電気圧力鍋は買っても片付けが面倒になって使わなくなる。

圧力鍋と無水鍋の違い

そもそも目的が違う。無水鍋は重い蓋の密閉性で食材自身の水分を循環させる鍋で、狙いは時間短縮ではなく味の濃さだ。野菜を水で薄めずに煮るので、同じ材料でも味が濃く出る。

ただし乾燥豆やすね肉に対しては、無水鍋はほとんど無力だ。100℃を超えられない以上、時間は普通の鍋と大差ない。逆に蒸し野菜や少量のご飯なら無水鍋のほうが扱いやすい。どちらか1つなら、硬いものを煮るなら圧力鍋、野菜を美味しく食べたいなら無水鍋、で分かれる。

正直に書く、圧力鍋の面倒なところ

買う前に知っておいたほうがいい欠点が5つある。どれも使い始めてから気づくものばかりだ。

パッキンが消耗品で、2〜3年ごとに交換が要る

蓋のゴムパッキンは加熱で少しずつ硬くなり、2〜3年で密閉できなくなる。交換部品は1個1,000〜2,000円程度が目安で、安全弁も含めれば10年使う間に数千円かかる。放っておくと蒸気が横から漏れて、いつまでも圧力がかからない。

だからメーカー選びで本当に見るべきなのはデザインではなく、交換部品を長く売り続けているかどうかになる。部品が手に入らなくなった圧力鍋は、その時点でただの重い鍋だ。

途中で味見ができない

加圧が始まったら蓋は開かない。開けるには火を止めて自然に圧が下がるのを10〜20分待つか、水をかけて急冷するしかない。味を見て醤油を少し足す、煮汁が煮詰まりすぎたから差し水をする、といった途中の調整が効かない。分量を先に決め打ちできるようになれば問題にならないが、そこまでは何度か作って感覚を掴む必要がある。

洗い物が増え、置き場所を取る

蓋・パッキン・おもり・安全弁と、使うたびに外して洗う部品が並ぶ。パッキンの溝に煮汁が残るとにおいが移るので、手を抜けない。本体も背が高く、5.5リットル級だと高さ25cm前後になる。シンク下に横倒しで入る鍋ではない。

じゃがいもや大根は煮崩れる

強い熱が一気に入るので、根菜は形が残らないことがある。じゃがいもを普通の煮物の感覚で5分加圧すると、蓋を開けたときにマッシュポテトになっている。対策は「加圧0分」、つまり圧がかかった瞬間に火を止めて余熱だけで通す使い方だが、これは何度か失敗して感覚を掴むしかない。

料理長メモ:うちの店でも圧力鍋は使っている。角煮の豚バラ、それに牛頬肉のような硬い部位を柔らかく戻すときだ。ただし出番はその仕込みがある日だけで、毎日握る道具ではない。硬い塊肉をまとめて仕込む工程には加圧して時間を縮める価値があるが、家庭で角煮を2〜3人分作るのに同じ判断は要らない。プロが厨房で使っている道具が、そのまま家庭にも必要になるとは限らない。

価格帯の目安

価格帯の目安タイプ代表的なメーカー向いている人
3,000〜8,000円エントリー(ガス火・2.5〜4L)パール金属 ほか年に数回、角煮や豆を試したい人
8,000〜20,000円中位(ガス火・多層底)ティファール・ワンダーシェフ・パール金属の上位機週1〜2回煮込む人。最初の1台はここ
20,000〜40,000円上位(高圧タイプ)・電気圧力鍋フィスラー・WMF、各社の電気圧力鍋週2回以上使う人。火の番をせず放置したい人

あくまで一般的な相場で、容量やセット内容で上下する。ただし3,000円台の最安値帯は、パッキンの入手性や蓋の締まり具合に不安が残る個体もある。ここだけは値段だけで選ばないほうがいい。

結局どれを買うべきか

買うなら、8,000〜20,000円台のガス火式、容量3〜4リットルを1台。これが大半の家庭にとっての正解だ。

理由は3つに絞れる。加圧に入るまでが速いこと、電気部品がない分だけ壊れるところが少ないこと、そしてこの価格帯のメーカーは交換パッキンを長く供給していることだ。3リットルなら2〜3人分の角煮や豆が一度に作れて、収納にも困らない。4人以上の家庭や作り置きをまとめてやるなら4.5〜5.5リットル。

電気圧力鍋を選んでいいのは、キッチンに常設の置き場所が決まっている人だけ。「共働きで帰宅前に煮込みを終わらせたい」という具体的な目的があるなら、2万円台は十分に元が取れる。目的が曖昧なまま多機能さに惹かれて買うと、炊飯器の隣で埃をかぶる。

そして、買わないという選択をはっきり勧めたい人もいる。1時間以上煮る料理が月に1〜2回以下なら、圧力鍋は不要だ。乾燥豆は水煮のパックを買えば済むし、すね肉や角煮は作る日を休日に回せば普通の鍋で足りる。

もう一つ、見落とされやすいことがある。買った人の多くが、持っていても使わない。手間のかかる煮込みを家庭で作る機会がそもそも少ないうえに、たまに作るときでさえ、使い慣れていない圧力鍋よりいつもの鍋に手が伸びる。道具は、性能ではなく「慣れていない」という理由だけで棚に残る。

判断に迷うなら、この1ヶ月の献立を思い出して、1時間以上煮た料理が何回あったか数えてみてほしい。2回未満だった人は、その予算を包丁か砥石に回したほうが、毎日の料理は確実に楽になる。

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