調理師免許は必要か|27歳で独学取得した料理長の結論

調理師免許がなくても、料理人はやれる。それでも私は、27歳のときにこの資格を取った。

結論から書いておく。その場しのぎで続けるつもりなら、無理に取らなくていい。長く続けるつもりなら、若いうちに取っておいたほうがいい。理由は、腕の証明になるからではない。

調理師免許がなくても料理人にはなれる

調理師は「名称独占」資格である。免許を持っていない人が「調理師」と名乗ることはできないが、調理の仕事そのものは免許なしでできる。調理師法8条に基づく制度で、いわゆる「業務独占」ではない。

飲食店の開業も同じだ。免許がなくても店は開ける。厨房に立つことも、包丁を握って料理を出すことも、免許の有無とは関係のない話である。

つまり、包丁を握って一人前になるかどうかと、免許を持っているかどうかは、まったく別の軸にある。腕は現場で磨くもので、紙一枚では証明できない。逆に言えば、免許があっても料理ができるとは限らない。試験で問われるのは食文化や栄養学、衛生の知識であって、包丁の技術ではないからだ。

「免許を取らなければ料理人になれない」と思い込む必要はない。求人に応募する段階で不安になり、必要ないのに慌てて勉強を始めるのはもったいない。知っておくべきは、この一点だけである。

それでも、周りの9割以上が持っている

制度上は必須ではない。それでも、私の周りで免許を持っていない料理人は、1割に満たない。ほとんどが持っている。

理由は単純だ。厚生労働大臣が指定した調理師養成施設を卒業すると、試験を受けずに申請だけで免許がもらえる。専門学校を出れば、意識しないまま手元に免許が届く仕組みになっている。

だから免許は、「取る取らない」を考える対象ですらないことが多い。学校を出たら勝手についてくるものだからだ。周りが持っているのは、選んだ結果というより、通過点として自然に持つことになった、という方が実情に近い。

私の場合はそうならなかった。出た学校が、この指定を受けていない学校だった。調理系の学校であっても、指定校とそうでない学校がある。卒業しても免許はもらえず、私は自力で試験を受けるしかなかった。同じ調理の学校を出ていても、免許の有無で明暗が分かれることがある。この違いを知らないまま入学する人は、今でも少なくないはずだ。

調理師免許と食品衛生責任者の違い

独立を考えたとき、実際に効いてくるのは調理師免許より食品衛生責任者のほうである。飲食店を営業するには、この食品衛生責任者を置くことが必要になる。

免許を持っていない人がこれを取るには、6時間の講習を受け、東京都の場合で12,000円ほどかかる。調理師免許があれば、この講習が免除される。開業の場面で差が出るのはここだ。

つまり、独立を見据えている人にとって調理師免許は、それ単体で何かをもたらすというより、食品衛生責任者を取るときの近道になる、という位置づけの方が正確である。名前が似ているだけで、中身も役割もまったく違う。

料理長メモ:正直に書くと、調理師免許を取ってよかったと実感した場面は、これまで特にない。困ったこともない。ただ一つ挙げるなら、何かの申請をするときに資格の欄で立ち止まらずに済むことくらいだ。必要な書類が一つ減る。それだけのことだが、その程度のことが、後になってありがたく感じることがある。

27歳、参考書1冊を3周。10時間で受かった

試験は実務経験ルートで受けた。受験資格は中卒以上、かつ2年以上の調理業務経験があること。原則として週4日以上、1日6時間以上働いていることが条件になる。

ここで取り違えが起きやすい。飲食店営業やそうざい製造業、魚介類販売業、学校や病院などの給食施設での勤務は実務経験として認められる。一方で、ホール専任の仕事や、喫茶店で氷菓や清涼飲料を出すだけの仕事は含まれない。「2年働いていたつもりが、受験資格を満たしていなかった」という話は珍しくない。受験を考えるなら、勤務先がどちらに当たるかを早めに確認しておいた方がいい。

受験料は都道府県によって違い、6,400円から6,900円ほど。東京都で6,400円、北海道で6,900円、愛知県で6,400円と、数百円の差がある。試験科目は食文化概論、栄養学、食品学、調理理論、公衆衛生学、食品衛生学の6科目である。

私は参考書を1冊買い、3周した。かかった時間は合計で10時間ほど。それで受かった。

ただ、これを一般化するつもりはない。大学に行っていたことも、運の要素も大きかったと思っている。試験である以上、一発合格が保証されているわけではない。10時間で足りる人もいれば、そうでない人もいる。自分の下地に合わせて計画を立てるべきだ。

長く続けるほど、効いてくる場面がある

学校や病院、寄宿舎などの給食施設では、調理師を置くことが努力義務とされている。義務ではない。それでも、こうした施設では免許を持つ人が求められやすい傾向がある。

厨房を長く続けた人が、年齢や体力の事情で給食施設や病院、福祉施設の調理に移ることもある。そのときに、免許の有無が効いてくる。

更新制度はなく、一度取れば生涯有効だ。取り直す手間はない。ただし給食施設などで調理業務に従事する調理師には、2年ごとに就業地の都道府県知事へ氏名や住所を届け出る義務がある。取って終わりではなく、働き方によっては手続きが続く資格でもある。

免許なしと免許ありで何が変わるか

項目免許なし免許あり
名乗り「調理師」と名乗れない「調理師」と名乗れる
調理の仕事できるできる
飲食店の開業できるできる
食品衛生責任者の取得6時間の講習が必要(東京都で12,000円ほど)講習免除で取得できる

こうして並べると、変わる部分は驚くほど少ない。名乗れる名称が増えることと、開業時の講習が一つ免除されること。それだけと言ってしまえば、それだけだ。腕や給料が上がるわけではない。この現実を知らずに免許を取る人は、拍子抜けするかもしれない。

取るべき人、取らなくていい人

その場しのぎで調理師をやっていくつもりなら、無理に取る必要性はあまり感じない。数千円の受験料と勉強時間をかけてまで取る意味は薄い。名乗れる名称が増える以上のことは、当面起きないからだ。

一方で、長くこの仕事を続けるつもりなら、頭がしっかりしている若いうちに取っておくことを強く勧める。試験の回数は都道府県ごとに限られていて、歳を重ねてから勉強し直すのは、思っている以上に骨が折れる。若いうちに済ませておけば、後になって「今さら」と迷う必要もなくなる。

料理長メモ:制度は変わるものだ。ふぐを扱う資格はもともと都道府県の条例で決まっていて、以前は調理師免許を要件にする自治体が多かった。ただ2019年の厚生労働省の通知を受けて見直しが進み、東京都は2023年度、山口県は2022年度から、この要件を撤廃している。神奈川や愛知も、今は免許を問わない。今日「必要だ」とされている条件が、数年後も同じとは限らない。