ステーキ屋さんや焼肉屋さんで「A5ランクの和牛、入荷しました!」という張り紙を見ると、思わず「お、美味しそう」と思ってしまう。
スーパーで肉を選ぶときも、「A5」のシールを見るとそれだけで高級感を感じる。
——これ、本当にそうでしょうか?
20年以上料理長として毎日和牛を扱ってきた私から、今日は少しぶっちゃけた話をさせてください。
「A5ランク=最高に美味しい」って、実は半分本当で、半分違うんです。
まず、A5ランクって何なのか
A5は「肉の格付け」のひとつで、日本食肉格付協会が定めた基準で評価されます。
格付けは2つの軸で決まります。
① 歩留等級(A・B・C)
1頭の牛から取れるお肉の量。Aが一番多い。
② 肉質等級(1〜5)
脂肪交雑(サシ)、肉の色、しまり、脂の色などの総合評価。5が最高。
つまり「A5」とは、肉が一番多く取れて、サシが一番美しい牛肉ということ。
ここでポイントなのは、「美味しさ」そのものを評価する基準ではないということ。
A5=サシがしっかり入った美しい肉——それ以上でも以下でもないんです。
料理長として正直に言わせてください
私のお店でも、もちろんA5の和牛を仕入れることがあります。お客様への「ご褒美」として、ハレの日の特別なお肉としてお出しすることが多いです。
でも、私自身が「毎日食べたい肉は何か」と聞かれたら、迷わずA4の赤身寄りを選びます。
なぜか。
A5の和牛は、本当にサシがすごい。一口食べると口の中でとろけて、甘い脂が広がります。最初の一切れは「うわっ、すごい!」って感動するんです。
でも、2切れ、3切れと食べ進めると、しんどくなってくる。
「もっと食べたい!」より「ちょっと水を飲みたい…」が先に来てしまう。脂が多すぎて、舌も胃も追いつかない。
これは私だけの感想じゃなくて、お客様からもよく聞きます。「最初の一切れは最高だったけど、半分くらいで満足しちゃった」と。
A5至上主義の落とし穴
世の中には、「A5こそ最高、A4以下は二流」みたいな空気が、なんとなくあります。
でも私は、料理人として20年以上肉と向き合ってきて、この風潮には少し違和感を持っています。
理由は3つあります。
1. A5は「ステーキ向き」とは限らない
A5は霜降りが多いので、焼くと脂がじゅわっと溶け出します。それは美味しいんですが、赤身肉らしいガッツリした「肉を食べてる感」は弱くなる。
「肉を食う!」というシンプルな満足感がほしいなら、A4以下の赤身がしっかりした和牛のほうが向いていることも多いんです。
2. 食べる量とのバランス
ステーキ150g、焼肉一人前——量を考えると、A5の脂は多すぎる場合があります。
少量を上品に味わうコースなら最高ですが、お腹いっぱい食べたい人にはA5は重すぎる。自分の食べ方に合った肉を選ぶほうが、結果的に満足度は高いです。
3. 値段と満足度が比例しない
A5はもちろん高い。でも、A4とA5の値段差は満足度に比例しないことも多い。
正直、ブラインドテストで「これA4、これA5」と区別できる人は、料理人でも少ないと思います。値段ほどの違いを「舌で」感じられるかは、人によるんです。
「本当に美味しい肉」を選ぶ3つの視点
20年以上肉を扱ってきて、私が思う「本当に美味しい肉」の選び方をお伝えします。
① 自分の好みを基準にする
霜降り派?赤身派?さっぱり派?こってり派?
「ランク」よりも「自分の舌が何を求めているか」を基準にするほうが、満足度はずっと高くなります。
私のお客様にも、「A5を食べたら絶対満足する」とは限らない方が多くいらっしゃいます。むしろ「A3のもも肉のステーキ最高でした!」と、目を輝かせて帰られる方も。
② 「品種」と「育て方」に注目する
ランクよりも、「どこの牛か」「どんな飼料で育ったか」のほうが、味に影響することがあります。
例えば、同じA4でも、有名ブランド和牛と無名の和牛では、肉の風味がぜんぜん違う。プロは、ランクよりも「血統」や「飼育方法」を見て選びます。
③ 「調理法に合う部位とランク」を考える
ステーキならA4の赤身、すき焼きならA5の肩ロース、ハンバーグなら脂が控えめなA3のもも——料理に合わせて肉を選ぶのが、本当に美味しく食べる秘訣です。
私が一番好きな食べ方
最後に、私の個人的な「至高の和牛の食べ方」を1つだけ。
A4の赤身寄りのモモ肉を、塩だけでステーキにする。
これに勝るものはないと、私は思っています。
肉本来の味を、余計な脂や霜降りで邪魔せず味わえる。一切れ食べると、和牛の旨味がジワッと染み込んでくる。
「A5の華やかさ」とは違う、「和牛の本気の美味しさ」がそこにあります。
A5を否定したいわけじゃありません
ここまで読んでくださって、「料理長はA5嫌いなのか?」と思われたかもしれません。
でも、そうじゃないんです。A5は本当に素晴らしいお肉です。特別な日に、少量を、味わって食べる——そんなときのA5は、何ものにも代えがたい喜びをくれます。
私が伝えたかったのは、「A5こそ最高」という固定観念に、ちょっとだけ風穴を開けてほしいということ。
ランクは肉を選ぶ「目安のひとつ」であって、すべてじゃない。
あなたの舌が一番美味しいと感じる肉が、あなたにとっての「最高ランク」です。
最後に
「いい肉を食べたい」と思ったとき、ぜひ一度、A5以外の和牛も試してみてください。
A4の赤身寄り。A3のもも肉。普段選ばないようなランクや部位を、いつものお店で頼んでみる。新しい「美味しい」に出会えるかもしれません。
そして何より、自分の好みを見つけたら、それを大事にしてください。世間のランクより、自分の舌のほうが正直なんです。
これからも、料理長として本音の話をお届けしていきます。
それでは、よい和牛ライフを🥩