米の研ぎ方、実は間違っている人が多い。料理長が教える正解

見習いで入ってきたばかりの若い衆に、米研ぎを任せたことがある。5合の米を、シンクの中でゴシゴシと力いっぱい研いでいた。まるで泥を落とすような勢いだった。ボウルの中を覗いて青ざめた。米粒の表面が白く濁って、あちこち欠けている。炊き上がったご飯は、粒がボロボロで艶がなく、その日の賄いは正直あまり美味しくなかった。

あの光景は今でも覚えている。米は「研ぐ」ものだと思っている人は多いが、実はそのイメージが失敗の元になっている。

「研ぐ」は今の精米技術では不要

そもそも「米を研ぐ」という言葉自体、今の時代には少し合わなくなっている。

昔の精米機は精度が低く、米の表面に糠がべったり残っていた。だから力を込めて米粒同士をこすり合わせ、糠を削り落とす必要があった。「研ぐ」という言葉はその時代の名残だ。

今の精米機は精度が格段に上がっていて、店頭に並ぶ時点で糠はほとんど残っていない。表面にわずかに付着した糠と、袋詰めの過程でついた微細な粉を落とすだけで十分になっている。つまり今の米に必要なのは「研ぐ」動作ではなく「洗う」動作だ。

料理歴20年以上の現役料理長として言わせてもらうと、この認識のズレが、家庭で米が美味しく炊けない原因の一つになっている。

研ぎすぎで起きること

力を入れて米をこすり洗いすると、いくつか困ったことが起きる。

米が割れる

米粒はデンプンの塊で、見た目より繊細だ。力を込めてこすると、粒の表面が傷ついたり、細かく割れたりする。割れた米は炊いたときに糊化のバランスが崩れ、べちゃっとした食感の原因になる。艶のあるご飯を目指すなら、米を割らないことが土台になる。

旨みと栄養が流れ出る

米の表面近くには、旨み成分やビタミン、ミネラルが多く含まれている。ゴシゴシ洗うとこの層が削れ、旨みごと排水に流れていってしまう。炊き上がりが「なんとなく物足りない」と感じるとき、原因が洗い方にあるケースは意外と多い。

糠くさくなる原因は逆

「しっかり研がないと糠くさくなる」と思っている人がいるが、これは順序が逆だ。糠くささの主な原因は、最初にすすいだ濁った水を米に長く吸わせてしまうことにある。力を込めて研ぐことと、糠の匂いを取ることは、実はあまり関係がない。

料理長メモ:割れ米の見分け方は簡単だ。研いだあとの水が白く濁りすぎているとき、それは糠だけでなく米の粉そのものが溶け出している可能性が高い。乳白色というより、うっすら白い程度が正常な状態だと覚えておくといい。

正しい洗い方の手順

道具はボウルとザル、あるいは目の細かいザルつきのボウルがあれば十分だ。

  1. 最初の水はすぐに捨てる 米をボウルに入れ、たっぷりの水を注いだら、10秒以内にすぐ水を捨てる。乾いた米は最初に触れた水を一番よく吸収する性質がある。この最初の水に糠の匂いや汚れが溶け込んでいるため、長く浸けたままにすると、その匂いを米が吸い込んでしまう。
  2. 指を軽く広げて混ぜる 水を切ったら、指を軽く広げた状態でボウルの中の米を大きくかき混ぜる。力を入れて押しつぶすのではなく、米同士が軽く触れ合う程度でいい。回数の目安は20回ほど。
  3. 水を注いで捨てる 水を加えてさっと揺すり、白く濁った水を捨てる。この工程を3〜4回繰り返す。
  4. 仕上げの見極め 水がうっすら白い程度になったら終わりのサインだ。完全に透明になるまで洗う必要はない。うっすらとした白さは米の旨み成分の一部でもあるので、そこまで神経質にならなくていい。
  5. 時間の目安 全体の作業時間はおよそ1分半から2分。長くても3分あれば十分終わる作業だ。5分も10分もかけて洗っている人がいたら、それはもう「洗いすぎ」に入っている。

料理長メモ:力加減がわからない人には「猫の頭をなでるくらいの強さ」と伝えている。指の腹で米を転がすようなイメージだ。ゴシゴシという擬音ではなく、サラサラという擬音のほうが正しい洗い方に近い。

無洗米との違いと使い分け

無洗米は、精米の段階で表面の肌糠(米粒の表面についたごく薄い糠の層)まで取り除いた米だ。洗う工程そのものが不要で、計量してすぐ炊飯器に入れられる。

無洗米のメリットは、研ぎ洗いによる旨み流出がそもそも起きないことと、時短になることだ。忙しい平日の朝など、洗う時間を省きたい場面では心強い。

一方で通常の精米との違いとして、無洗米は水加減をやや多め(米1合あたり大さじ1程度)に調整する必要がある。肌糠を取り除く分、米の表面が水を吸いにくくなっているためだ。普段通りの水加減で炊くと、芯が残った仕上がりになりやすい。

家庭で毎日忙しく米を炊くなら無洗米、時間に余裕があって炊き上がりの香りや食感にこだわりたいなら通常精米、という使い分けでいいと思っている。

水加減の基本にも少し触れておく

洗い方が整ったら、次に気になるのが水加減だろう。基本は米の体積の1.2倍が目安だが、新米か古米か、無洗米か通常精米かによっても微調整が必要になる。この話を始めると長くなるので、水加減と浸水時間については次の記事で詳しく扱うことにする。

まとめ

米は力任せに研ぐ食材ではなく、やさしく洗う食材だ。

最初の水はすぐに捨てる。力を入れず、指を広げて大きく混ぜる。水がうっすら白くなった程度で終える。全体で2分もあれば十分な作業だ。

見習いの頃に見た割れ米だらけのご飯を思い出すたび、洗い方一つでここまで仕上がりが変わるのかと今でも思う。次に米を炊くときは、力を抜いて洗ってみてほしい。

料理長まっくるの和食帳では、現役料理長の視点から肉料理・和食の知識を発信しています。

料理長おすすめ|洗米をラクにする道具と無洗米

記事で紹介した洗い方をもっと快適にする道具と、無洗米派向けの一本を挙げておく。

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記事で触れた無洗米の代表格。洗う工程を省きたい忙しい平日にちょうどいい。水加減を気持ち多めにする点だけ覚えておけば、普段の炊飯とほぼ変わらない手軽さで炊ける。

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