包丁の研ぎ方を料理長が解説|砥石の選び方から研ぐ頻度まで

「切れない包丁ほど危ない」と言われて、ピンとくる人は少ないかもしれない。感覚的には切れる包丁のほうが怖い気がする。でも現場で怪我をするのは、だいたい切れない包丁を使っているときだ。

刃が鈍っていると、食材に力を入れて押し切ろうとする。玉ねぎの皮に刃が滑って弾かれ、そのまま指に向かっていく。切れる包丁なら、刃の重みだけですっと入っていく。力をかけずに済む分、事故が起きにくい。

料理歴20年以上の現役料理長として、砥石の選び方と研ぎ方の基本を本音で解説する。

砥石の種類と番手

砥石には「番手」という数字がある。数字が小さいほど粒が粗く、大きいほど細かい。この番手を理解しておくと、砥石選びで迷わなくなる。

荒砥石(あらと):番手 #120〜#600

刃こぼれを直したり、刃の形を大きく整え直したりするための砥石。粒が粗いので、削る力は強いが表面はザラザラに仕上がる。家庭で日常的に使う出番はほとんどない。刃をぶつけて欠けさせたときの緊急用だ。

中砥石(なかと):番手 #800〜#2000

日常の研ぎに使う、いわばメインの砥石。切れ味を回復させ、刃をある程度なめらかに整えられる。家庭用として売られている砥石の多くはこの番手帯に入る。

仕上げ砥石(しあげと):番手 #3000〜#8000以上

刃をさらに磨き上げて、鏡面のような滑らかさに仕上げる砥石。刺身包丁のような繊細な切れ味を求める場面で使う。家庭の三徳包丁にここまでの仕上げは正直不要だ。

種類番手用途家庭での必要度
荒砥石#120〜#600刃こぼれの修復・形直し★☆☆☆☆
中砥石#800〜#2000日常の研ぎ・切れ味回復★★★★★
仕上げ砥石#3000〜#8000鏡面仕上げ・繊細な切れ味★☆☆☆☆

家庭ならまず中砥1本でいい

結論から言う。家庭に砥石を1枚だけ置くなら、番手#1000前後の中砥石でいい。

荒砥は刃こぼれという緊急事態のための道具で、普段使う機会がほとんどない。仕上げ砥はプロの厨房でも刺身用の柳刃くらいにしか使わない。三徳や牛刀を家庭で研ぐなら、中砥1枚で十分事足りる。

料理長メモ:うちの厨房でも、日々のメンテナンスは#1000の中砥がメインだ。刺身を引く柳刃だけ仕上げ砥まで使うが、それ以外の包丁は中砥で研いで終わり。3枚も4枚も揃える必要はない。まず1枚、ちゃんとしたものを持つほうがよほど意味がある。

砥石は水に浸すタイプ(給水砥石)と、水をかけながら使うタイプがある。家庭用なら10〜15分ほど水に浸けてから使う給水タイプが手頃で扱いやすい。価格は2,000〜4,000円程度のものでも十分な性能がある。

研ぎ方の手順

砥石を使った研ぎ方の基本を書く。最初は5分もかからない作業だが、慣れるまでは時間がかかっても構わない。

  1. 砥石を水に浸す 気泡が出なくなるまで、10〜15分ほど水に沈めておく。乾いたままの砥石は目が詰まりやすく、削れが悪い。
  2. 砥石を安定させる 濡れ布巾を下に敷くか、専用の台に固定する。研いでいる最中に砥石が動くと、角度が安定せず刃がガタガタになる。
  3. 角度を決める 刃と砥石の角度はおよそ15〜20度。目安は「500円玉2枚分」の隙間を刃と砥石の間に作るイメージだ。この角度を研いでいる間ずっとキープする。
  4. 刃を前後に動かす 刃元から刃先まで、包丁全体を使って前に押し出すように研ぐ。力は入れすぎない。砥石の重さと刃の重さで十分削れる。片面20〜30回を目安に。
  5. 裏面も同様に研ぐ 表を研いだら裏返して同じ回数研ぐ。片面だけ研ぐと刃が左右非対称になり、切ったときに食材が斜めにずれていく。
  6. バリを取る 研ぎ終わると刃先に「返り(バリ)」という細かなめくれが出る。新聞紙を数回切るか、軽く刃を撫でるようにして取り除く。
  7. 水気を拭き取る 研いだ後は刃に水分が残っている。放置すると錆びの原因になるので、しっかり乾いた布で拭く。

料理長メモ:角度を一定に保つのが最初の壁になる。私も見習いの頃、角度がぶれて刃が波打ってしまい、先輩に研ぎ直された経験がある。コツは体を動かさず、腕の角度だけで押し引きすること。体ごと動かすと角度がブレやすい。

シャープナーと砥石の違い

包丁売り場でよく見る「シャープナー」は、溝に刃を通すだけで研げる簡易的な道具だ。手軽さは魅力だが、砥石とは仕組みも仕上がりもまったく違う。

シャープナーは硬い素材で刃を削って形を整える。数秒で切れ味は戻るが、削る量が多く刃の寿命を縮めやすい。緊急でとにかく切れ味を戻したいときの応急処置と考えたほうがいい。

砥石は刃の面全体を丁寧に磨き上げる。削る量は少なく、刃の形状を保ちながら切れ味を長持ちさせられる。手間はかかるが、包丁を長く使うならこちらが本筋だ。

私の感覚では、シャープナーは「その場しのぎ」、砥石は「メンテナンス」。月に1本シャープナーを通すくらいなら害は少ないが、毎回それだけに頼っていると刃がどんどん薄く削られていき、数年後には刃渡りが目に見えて短くなる。

研ぐ頻度の目安

家庭とプロでは、研ぐ頻度がまったく違う。

プロの厨房:私は仕込みの前、ほぼ毎日軽く研いでいる。魚をさばく出刃や柳刃は特にシビアで、1日使ったら翌朝には研ぎ直す。刺身の断面の美しさは、その日の刃の状態がそのまま出る。

家庭:三徳を毎日使う家庭でも、研ぐのは2週間に1回程度で十分だ。切れ味の落ち方を感じてから研げばいい。トマトの皮がつるっと滑るようになったら、それが研ぎどきのサインだと思ってほしい。

目安の判断方法:新聞紙を持って、刃を軽く当てて引いてみる。すっと切れずに紙が破れるように裂けるなら、研ぎどきだ。

使用頻度研ぐ頻度の目安
毎日料理する家庭2週間に1回程度
週に数回料理する家庭1ヶ月に1回程度
プロの厨房ほぼ毎日(包丁による)

まとめ

切れない包丁は、便利な道具ではなく危険な道具になる。力任せに押し切ろうとする動作が、指を切る原因になりやすい。

家庭に砥石を置くなら、まず番手#1000前後の中砥石を1枚。角度は15〜20度、片面20〜30回を目安に、表裏均等に研ぐ。シャープナーは応急処置、砥石はメンテナンスと役割を分けて考えるとわかりやすい。

研ぐ頻度は2週間に1回程度で十分。「トマトの皮が滑る」を研ぎどきのサインにしてほしい。

料理長まっくるの和食帳では、現役料理長の視点から肉料理・和食の知識を発信しています。

料理長おすすめ|砥石とシャープナー

記事で解説した「まず中砥1枚」の考え方に沿って、選んで間違いのないものを挙げておく。

プロも使う定番の中砥|シャプトン 刃の黒幕 #1000 オレンジ

研ぎの世界で「迷ったらこれ」と言われる定番中の定番。削れが速く、水に長く浸けなくてもすぐ使える。最初の1枚をちゃんとしたものにしたい人はこれを選んでおけば後悔しない。

▶ シャプトン 刃の黒幕 #1000 オレンジ をAmazonで見る

手頃に始めるなら|貝印 コンビ砥石セット #400・#1000

#400と#1000が裏表になったコンビ砥石。研ぎ台も付いていて、この1つで刃こぼれ対応から日常の研ぎまでこなせる。記事に書いた2,000〜4,000円の価格帯そのままの、入門にちょうどいい一枚。

▶ 貝印 コンビ砥石セット #400・#1000 をAmazonで見る

応急処置用に|貝印 関孫六 ダイヤモンド&セラミックシャープナー

記事で書いたとおりシャープナーは「その場しのぎ」だが、持っておくと忙しい日に助かるのも事実。買うならこの関孫六のダイヤモンド&セラミック式が刃への負担が少なめでおすすめ。

▶ 貝印 関孫六 ダイヤモンド&セラミックシャープナー をAmazonで見る

※上記リンクはAmazonアソシエイトのアフィリエイトリンクです。