「今日もダメだった」は、たぶん本当じゃない

夜、布団に入って電気を消した瞬間に、ふっと「今日もダメだった」と思うことはありませんか。

予定していたことが半分しか終わらなかった。家族にきつく当たってしまった。やる気がなくて、ただスマホをいじって一日が終わった。そんな日の夜、自分の一日を「ダメな一日」と一言でまとめてしまう。

私もずっと、そうでした。

でもあるとき、その「ダメだった」という言葉に、かなり大きな嘘が混じっていることに気づいたんです。

「最悪の一日」だと思った夜の話

数年前のことです。

その日、私は仕事で大きなミスをして、上司にしっかり叱られました。お昼を食べる気にもなれず、午後はずっと頭がぼんやりして、何度も同じ書類を読み返していた記憶があります。

家に帰る道すがら、自分のことばかり責めていました。「なんであんな簡単なことを間違えたんだろう」「もう信用なんて取り戻せない」「今日は最悪の一日だった」と。

その夜、ベッドに入ってからもずっと頭の中で同じ言葉がぐるぐる回っていて、明け方近くまで眠れませんでした。

ところが翌日、出社すると、後輩から声をかけられたんです。

「昨日、相談に乗ってくれてありがとうございました。あの一言で気持ちがすごく楽になりました」

その瞬間、固まりました。

そんなやり取り、自分の中ではすっかり消えていたからです。叱られたショックがあまりに大きくて、自分が後輩の話を聞いていたことも、励ます言葉をかけていたことも、全部記憶の隅に追いやってしまっていた。

「最悪の一日」だと思っていたあの日にも、確かに誰かを救う瞬間があった。それを、私は自分で「なかったこと」にしていたんです。

脳は「悪かったこと」だけを覚えておきたがる

これは私だけの話ではなくて、人間の脳の仕組みでもあります。

心理学では「ネガティビティ・バイアス」と呼ばれていて、人間は良いことよりも悪いことのほうを5倍ほど強く記憶するといわれています。原始時代、危険を覚えておくことが生存に直結したから、その名残なんだそうです。

つまり、「今日もダメだった」と感じるのは、あなたの一日が本当にダメだったからじゃない。脳が、悪かったことだけをピックアップして見せてくる癖を持っているから、なんです。

これを知ったとき、私は妙に救われた気持ちになりました。「ダメだった」は事実じゃなくて、脳がそう感じさせているだけなんだと。

一日の終わりに、紙に書き出してみた

それからしばらくして、寝る前に「今日やったこと」をノートに書き出してみる習慣を始めました。

最初は半信半疑でした。「どうせ書くことなんてない」と思っていたし、書いても自分を慰めるだけのような気がしていたからです。

でも実際にやってみると、驚くほど出てくる。

朝、洗濯物を干した。コンビニで店員さんに「ありがとう」と言った。後輩の質問に答えた。夕飯を作った。お風呂に入った。家族に「おやすみ」と言った——

書き出してみると、「何もしなかった日」のはずが、20個以上の行動で埋まっていることがほとんどでした。

その紙を眺めながら、私は思いました。「ダメだった」と感じていたのは、自分が動けなかったからじゃない。動いていたのに、自分でそれを認めていなかっただけなんだと。

「ダメだった」と言いそうになった夜、母から電話が来た話

決定的だったのは、ある夜の出来事です。

その日も私は「今日もダメだった」と感じながら布団に入っていました。何が悪かったわけでもないのに、ただ漠然と「足りない」「やれていない」という気持ちでいっぱいだった。

ちょうどそのとき、母から電話がかかってきたんです。

近況を話していたら、母がぽつりと言いました。「あんた、ちゃんとご飯食べてるの。仕事行ってるの。それだけで十分すごいよ」

その言葉を聞いた瞬間、なんだか涙が出てきました。

私は、自分に対してその「十分すごいよ」を、一度も言ってあげていなかった。むしろ、できなかったことばかり数えて、自分を責める材料にしていた。

母の声は、それを優しく見つけてくれた感じがしました。

寝る前に、3つだけ思い出してみる

それ以来、私は寝る前に「今日できたこと」を3つだけ思い出すようにしています。

大したことじゃなくていい。「歯を磨いた」「メールを返した」「水を飲んだ」——本当にそのレベルでいいんです。

ポイントは、できなかったことは数えないこと。

その3つを思い出すと、不思議と「今日もダメだった」という言葉が、口から出てこなくなります。代わりに、「今日もちゃんと生きたな」というぼんやりとした手応えが残る。

その手応えは、明日の自分を少しだけやさしくしてくれます。

あなたの今日は、たぶんダメじゃない

「今日もダメだった」と感じる夜があったら、思い出してください。

それはあなたの真実ではなく、脳がつくる錯覚です。

朝起きて、何かを食べて、誰かと言葉を交わして、布団に入った。それだけでもう、あなたは十分にこの一日を生き抜いている。

「ダメだった」の正体は、たいてい「自分にだけ厳しくしすぎている」のサインです。

今夜は、自分を責める前に、3つだけ「できたこと」を思い出してみませんか。きっとそこに、明日もう一度立ち上がるための、小さな光が見つかります。🌙