① はじめに:「頑張らなきゃ」が口ぐせだったあの頃
「もっと頑張らなきゃ」
昔の私は、その言葉を何度も何度も自分に言い聞かせていました。
疲れていても「休んでいる場合じゃない」と立ち上がり、上手くいかなくても「まだ足りない」と自分を責める。
頭のどこかに、いつも“頑張らなきゃ”という声が鳴り響いていました。
若い頃の私は、調理師になってまだ間もない頃でした。
一生懸命やっているつもりでも、歯車が噛み合わず空回りばかり。結果も出ず、自信はどんどん失われていきました。
夢の中でも仕事のことが浮かんでくるほどで、「自分は何をやってもダメなのかもしれない」と、布団の中でため息をつく夜もありました。
それほどまでに、“頑張らなきゃ”という気持ちが自分を支配していたのです。
いくら頑張っても頑張っても、心は満たされませんでした。
成果が出ても「もっと上を目指さなきゃ」と思い、休んでいる時間は「怠けている」と自分を責める。
どれだけ頑張っても、「これでいい」と思える日は来なかったのです。
ある時、ふと気づきました。
私を苦しめていたのは“頑張ること”そのものではなく、“頑張らなきゃ”という考え方だったんだと。
それから少しずつ、その思い込みを手放していくようになりました。
今回は、「頑張らなきゃ」に縛られて苦しかった私が、心を軽くするために手放してよかった5つの考え方をお話しします。
② 「頑張らなきゃ」の呪いから抜け出すために、私が手放した5つの考え方
1.「休む=サボり」という思い込みを手放した
昔の私は、休むことに罪悪感を抱いていました。
「ここで休んだら置いていかれる」「今止まったら終わってしまう」と思い込み、無理をしてでも動き続けていたのです。
でも、本当はそうじゃありませんでした。
一年目のある日、気持ちが追い詰められていたのと、慣れない一日中の立ち仕事が重なって、とうとう身体を壊してしまいました。
初めて「一日休みをください」と口にしたあの日のことは、今でもはっきり覚えています。
最初は「自分はダメだ」と自己嫌悪でいっぱいでしたが、不思議なことに、たった一日でも休んだあとは、頭が驚くほどスッキリしていて、物事を冷静に見られるようになっていたのです。
体と心には、回復の時間が必要です。
植物が芽を出す前に静かに根を張るように、私たちも休む時間があるからこそ、次の一歩を踏み出せる力が湧いてきます。
今では、立ち止まる自分を責めることはありません。
「今は根を張る時期なんだ」と思えるようになってから、焦りが少しずつ薄れていきました。
2.「みんな頑張ってるのに」という比較の癖を手放した
SNSを見れば、誰かが夜遅くまで努力している姿や、新しい挑戦をしている様子が目に入ります。
昔の私はそれを見るたびに、「自分も頑張らなきゃ」「あの人はこんなにやっているのに」と焦っていました。
でも、よく考えてみれば、人それぞれ置かれている状況はまったく違うんです。
体力も、環境も、抱えている事情も、人によってまるで違うのに、同じ物差しで比べることに何の意味があるのでしょうか。
私自身も、他人と比べて落ち込んでいた頃は、どんなに頑張っても満足できませんでした。
けれど、他人ではなく「昨日の自分」と比べるようになってから、少しずつ気持ちが軽くなっていきました。
「昨日より5分早く起きられた」「先週より一つ丁寧に仕事ができた」——そうやって小さな進歩を見つけることが、自分を責めずに前に進む力になります。
他人と比べて焦るよりも、昨日の自分と比べて少しでも進んでいるかどうかに意識を向ける。
それだけで、心の景色は大きく変わります。
3.「結果がすべて」という価値観を手放した
昔の私は、結果が出ないと自分に価値がないと感じていました。
「努力しても意味がない」「才能がない」と自分を責めては、行動することすら怖くなってしまっていたのです。
特に料理の世界は結果が目に見える仕事です。お客様の反応、上司の評価、売上数字…。
私はそれだけを自分の価値の基準にしてしまい、「結果が出ない=自分は無価値」と決めつけていました。
でも、ある時から考え方を変えました。
結果はコントロールできないけれど、“行動”は自分でコントロールできる。
そう気づいた瞬間、少し肩の力が抜けました。
たとえ小さな一歩でも、「今日、これをやれた」と自分を褒める。
「原稿を1行書けた」「机に向かって5分考えられた」——それだけでも、確実に未来に近づいています。
行動を大切にするようになってから、私は自分を責めることが減りました。
そして、「行動できる自分」を信じられるようになっていったのです。
4.「もっとやらなきゃ」と自分を追い立てる声を手放した
“もっと”という言葉は、私をずっと追い詰めてきました。
もっと頑張らなきゃ、もっと成果を出さなきゃ、もっと人に認められなきゃ……。
でも、立ち止まって考えてみると、“もっと”という言葉は、今の自分を否定している言葉でもあるんです。
「今の自分じゃダメだ」と思っているから、もっとを求めてしまう。
そのことに気づいてから、「今の自分もちゃんと頑張っている」と声をかけるようになりました。
昨日より少しだけ成長できたなら、それで十分。
そうやって小さな努力を積み重ねるうちに、自然と次の力が湧いてくるようになったのです。
“もっと”を手放すと、足りないところばかり見ていた心が、「今あるもの」に目を向けられるようになります。
それだけで、心の余裕は驚くほど広がっていきます。
5.「頑張らないと価値がない」という思い込みを手放した
私が最後まで手放せなかったのが、この考えでした。
「頑張っていない自分には価値がない」
そう思い込んでいたから、無理をしてでも動き続けようとしていたのです。
でも、本当は違いました。
私たちの価値は、頑張るかどうかで決まるものではありません。
何もしていない日があってもいいし、うまくいかない日があってもいい。
大切なのは、「それでも自分を否定しない」ということでした。
“頑張らなきゃ”を手放すと、自分を責める時間が減ります。
そして、自分を認める時間が増えていく。
「何者かにならなきゃ」ではなく、「私は私のままでいい」と思えるようになると、生きることが少しずつ楽になっていきました。
③ おわりに:「頑張らなきゃ」を手放すと、心は自由になる
“頑張らなきゃ”という言葉は、一見前向きに聞こえるけれど、時に私たちの心を静かに蝕んでいきます。
気づかないうちに、自分を責め、追い詰め、苦しめてしまうのです。
でも、その考え方は「本当にそうしなきゃいけない」と誰かに決められたわけではありません。
ただ、自分がそう信じ込んでいただけなんです。
少しずつ手放していけば、心はちゃんと自由になっていきます。
そして静かになった心には、**「私は本当はどうしたいのか」**という声が聞こえるようになるのです。
焦らなくていい。止まってもいい。
“頑張らなきゃ”をやめた先には、「私のペースで生きていく」という、本当に大切な生き方が待っています。
昔の私は、「頑張らなきゃ」と自分を追い詰めていました。
でも今は、「頑張ってもいいし、頑張らなくてもいい」と思えています。
自分のペースで進んでいい――そう思えるようになっただけで、毎日がずっと穏やかになりました。
今日も、あなたはあなたのままで大丈夫です。
ほんの少しでも、自分を肯定できたら、それだけで一歩前に進めているのですから。